バラの庭づくり・オークンバケット

ぶん昔のこと。

小輪のバラばかり集めていたときに出会ったのが、小さくて頼りなげな、ピンクのひと重咲きでした。

園芸店の店先に並べられた苗のラベルに書いてあったのは、ただ「バラ」とだけ。

その時はどんな性質のバラなのか気にせずに、ただ、かわいい色と形が気に入って買い、大事に連れて帰りました。

ところがそのバラは、とても細い枝なのに、どんどん伸び始めるではありませんか。

当時、開いていた布小物のアトリエとお店には、草花が咲く庭にモッコウバラやアンジェラが咲くパーゴラもありましたが、

細く長く伸びた枝の行く先 を決められず、持て余して周りの樹木に引っ掛けていました。

そんなとき、偶然にもふるくなって少し錆びたアーチをいただいたのです。

憧れのアーチが庭に届いたときは嬉しさに心が踊りました。

アーチに咲かせればバラの横顔も、後ろ姿も心おきなく楽しめる。

アーチを立てたそこには小道が生まれるし、小道のわきにはかわいい草花をたくさん咲かせよう。

明日、花屋さんに草花を見つけに行って…

きっと、あのときのあふれるような思いは、つるバラを初めて手にした人が感じる喜びや期待感と同じだと思います。

そして、私は今もあのときと同じ野の花のような可憐なバラや草花の愛らしさに心引かれるのです。

ある日、アトリエの庭に咲いたピンクの小さなバラが、窓の外から何か話しかけてきたような気がしました。

窓に目を向けると、イスや、クッション、カーテンのある暮らしの空間の向こうに、バラの花咲く庭が見えたのです。

それは今まで考えたこともなかった、新鮮なバラの風景でした。

暮らしと庭がひとつになった、その風景こそ、オークンバケットの原点です。

私たちがお手伝いできることは小さなことですが、それでも、バラを咲かせるだけでなく、枝が伸びていく様子や、

新芽がほぐれるときの素晴らしさが 伝わる庭、季節の移ろいを感じる庭を届けたい。

だから、冬の枝の誘引や剪定をダイナミックにしながら、一方では春に咲く球根の根を傷つけないようにとか、

植えたばかりのスミレの小さな葉を踏ま ないようにとか、小さなことも気になるのです。

私たちがお手伝いしてきたつるバラの庭を、そして、つるバラと暮らす日々を、どうぞ一緒にこの本でご覧ください。


バラの庭づくり・オークンバケット 加藤矢恵


河出書房出版社 「オークンバケット加藤矢恵のつるバラと暮らす庭」より抜粋
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